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2008年03月01日 09:01

VOL 8

○有機栽培米のお酒づくりにかける人々

 有機栽培の酒米づくりから純米吟醸の酒づくり、及び販売までを手がける人々がいる。新潟県三条市栄地区の人々である。
 この地域特産の酒づくりプロジェクトを立ち上げたのは、酒屋店を営む近藤正祐さん(当時38歳)だ。料理が好きで、家族を愛するごく普通の青年である。平成6年のことだ。近藤さんは自分の生まれ育った周りの田んぼから、泥鰌やタニシ、めだか、たがめ、ゲンゴロウなどが次々と姿を消していくのをまのあたりにみて、自然破壊の恐ろしさを実感し、なんとかならないかと考えていた。
 そんな時、環境保全型農業を推進している若手の農家のグループと出会った。有機栽培や自然農法を研究実践しているグループである。農薬や化学肥料を一切使わずに、土中微生物による本来の農法で美味しい農産物を作り続けているという。
 近藤さんはとっさに「有機栽培で酒米を栽培し、この米で栄町の特産お地酒をつくろう」と思いたち、早速動き出した。怖いもの知らずの一途な気持ちが燃え滾ったのだ。酒屋を営むだけの近藤さんには無謀とも思える決断だった。



 さっそく有機栽培農家と町内の酒屋店の仲間に話を持ち込んで、熱き思いを投げかけた。もちろんスムーズに賛同を得られるとは思わなかったが、必死だった。
 その熱意に「やろうじゃないか」と強力に後押ししてくれたのが、現然酒会の会長である渡辺荘吉氏である。近藤さんと同じ酒屋を営んでいる町の長老である。農家のグループも栽培米の購入保障を条件に、種籾の手配と栽培の研究を始めることになり、町の酒屋―農家連合が形を作っていった。
 プロジェクトは様々な課題を抱えながら、連合の名前も然酒会と決まった。自然のままのお酒という気持ちを込めた名前である。
 さてここまではごく一般にある特産品起しのストーリである。しかし課題は山積していた。先ずどこの蔵元に酒造りを委託するかである。蔵元が主導して農家に特別米を作らせる話しはよくあるが、酒屋と農家の連合チームが酒造りを持ち込み、全量引き取るなどとは聞いたことがない。リスクもある。しかも近藤さんたちの酒質に対する目はかなり厳しい。本物を作りたいと願うからだ。
 そんな条件をクリアしたのが津川の銘酒蔵元「麒麟山酒造」である。その仲立ちは県酒類販売株式会社が行った。熱意というものは、伝わるものであると近藤氏は感じたという。
 麒麟山に減量米(五百万石)を持ち込み、純米吟醸に仕込んでもらい、絞った原酒を生のまま瓶詰めにする。いわば「絞りたて生」を基本にすることで、商品の特徴を押したてることにした。この特徴づくりを一本立てるという。
 次は商標とラベルとカートンのデサインをどうするかである。素人ばかりの集団には重い課題である。近藤さんには頭の痛い課題である。
 しかし商標は栄町の町民から公募し、120件の中から「しらさぎ」にたいする町民の愛着が多かったことから、すんなりと「越乃しらさぎ」と決定した。ラベルの字体(ロゴ)は当時の町長に依頼し、趣のあるロゴが完成した。同時並行していた有機米も46表の収穫があり、いよいよ醸造にまでこぎつけた。
 ここまでくると地元のマスコミも取り上げてくれて、関与者のテンションは期待へと一気に上がっていく。こうして平成6年の12月15日に初出荷を迎えた。47、00本(720ml)である。
 この仲間に振り分けられた夢の「越乃しらさぎ」には、予想をこえた予約が入り、翌年の3月には完売となった。グループ全体によろこびの歓喜が満ち溢れたのは言うまでもない。
 この酒は冷蔵保存で熟成させ、風味や香りともに徐々に円熟味をましていく。3ヶ月、6ヶ月、1年と落ち着いたうま味へと変化していくのだ。これは生貯蔵の醍醐味である。
改めてこの「越乃しらさぎ」を紹介しておこう。  


  • コンセプト:「有機栽培米純米吟醸しぼりたて生酒」
  • 原料米:有機栽培「五百万石」
  • 精米歩合:55%
  • アルコール度:17,5% 要冷蔵
  • 価格:720ml/2205円(税込み)
  • 企画開発、原料米生産:然酒会
  • 醸造元:麒麟山酒造
  • 事務局:近藤酒店、電話&FAX-02576・45-2036
  •       makotin@d3.dion.ne.jp
  • 注文はメール、電話、FAXで受け付ける

 しかし近藤さんたちは、喜んでばかりおれないと、この輪を広げるための次の企画を模索しはじめた。2年目からは、消費者が参加できないかと模索し始めたのである。しかもそれは原料米づくりから一緒にやれないかという夢の構想である。子ども達を含めた家族の参加をイメージしていたのだ。
 その構想に応えたのが、有機栽培農家の山崎哲矢さんである。早速仲間が集う田んぼでの米づくり体験会を発足させた。
おおよその農業体験会の日程は以下の通りである。参加の会費は1000円。        5月中旬―田植え会
6月中旬―草とり、じゃがいも掘り
9月上旬―稲刈り
11月上旬―秋の餅つき会(収穫祭)
12月上旬―新酒の初呑み切り会
 そしてこの体験会には多くの参加者が集い、現在も続いている名物行事となり定着していくことになる。初参加の幼児が会を重ねる毎に大きくなり、すでに中学生になったと渡辺会長は笑う。

 筆者も3度ほどこの農体験に参加した。作業は和気藹々とすすみ、作業が終わればお楽しみの小昼が待っている。草の上でビニールシートを敷き、田んぼの風に吹かれながら、近藤さん得意の豚汁やおむすびをほお張る会食である。もちろん「越乃しらさぎ」も登場する。
 場所は近くの公民館の場合もある。出し物として伝統神楽の舞が演じられることもある。それを茣蓙に座りながら楽しむのだ。
 そしてお開きには必ず全員である歌を合唱するのが決まりである。その歌は童謡の「ふるさとの歌」である。しみじみとした素朴なイベントであり、然酒会の会格がにじみ出ている。この雰囲気はとてもすばらしい。
 さらに新酒の飲みきり会も毎年、近くの料亭で開催している。関与者への報告と感謝の意味を含めている。市長や商工会議所、農家、麒麟山酒造など50名ほどが集い、新酒の出来具合を楽しんでいるのである。会の名物行事となっている。

 最後に近藤さんに今後の然酒会の抱負を聞いてみた。以下のとおりである。
然酒会の理念を理解した仲間たちが、一貫したブランドつくりに携わるのが会の特徴であり、それを今後も守っていきたい。しかし酒販店を廃業したメンバーの離脱という課題があり、仲間を増やしていくことに苦慮している。
 しかも地域限定のブランドの枠があり、販路のむやみな拡大は会の方針にそぐわない。このような課題はどこのグループや地域にも共通であるが、それを打破するためのいろいろな知恵を出し合っている。
 具体的には旧三条市の酒屋や飲食店への働きかけと、お酒以外の有機米の商品の開発などを仲間と検討している。すでに有機米のお餅などが候補に挙がっている。要は栄町の酒販店で売れる、こだわりブランドの品揃えの拡大が急務なのである。
 しかも今年の新酒の3,000本(720ml)はすでに予約で完売した。小さいながらもブランドとしての存在は認知されており、この「「越乃しらさぎ」を軸に据えて、農―製―販のコラボブランド路線を育てていきたいと考えている。以上が近藤さんの今後の抱負である。
 町の酒屋の若者が立ち上げた地域ブランドのドラマは、未だ道半ばである。紆余曲折を繰り返しながら、過疎化する地域の環境と経済の両立を目指そうとするプロジェクトに、なつかしき未来の地域像をみる思いがする。
このお酒に関心がある人は、下記のアドレスにアクセスしていただきたい。
              http://www.d3.dion.ne.jp/~makotin/sirasagi.htm
小さな町の小さなブランドつくりドラマのレポートである。