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2008年02月01日 09:00

VOL 9

○ ママたちの食育概論(その7)

(3-10)、だし文化に関する教養(後編)

 だし文化に関する後編に入っていきます。うま味の不思議さやその謎の部分に触れれば、俄然、食育が楽しくなってきます

2、うま味のひみつを探る

 うま味(旨み、旨味、うまみ、UMAMI)は、主に次の成分によって生じる五味のひとつです。
グルタミン酸(アミノ酸の一種、昆布などの植物に多く含まれる)
イノシン酸(核酸の一種、かつお節などの動物に多く含まれる)
グアニル酸(核酸の一種、椎茸に多く含まれる)
キサンチル酸(核酸の一種)
その他のコハク酸や塩分(貝類に含まれる)
一般的にはうま味調味料などと呼ばれて、馴染み深いものだが、この教養は奥が深い。
そのうま味に関する様々なひみつの教養を挙げておきましょう。

▲合わせだしの秘密とは

 だしの素材としてよく使われるのが昆布、かつお節、煮干し、干し椎茸です。これら単独でもだしは取れるが、2つの素材を組み合わせるとうま味が強くなります。これを「合わせだし」と呼んでいます。
 アミノ酸系のグルタミン酸と核酸系のイノシン酸(グアニル酸)を混合すると、それぞれ単独のときよりもうま味が数倍に増加するのです。これをうま味の「相乗効果」と呼んでいるが、そのメカニズムはまだ解明されていません。
 ではどれくらいの増強効果があるかと言えば    グルタミン酸+イノシン酸=約6~7倍になる
グルタミン酸+グアニル酸=約25倍~30倍になる
となり、まさに合わせ技の妙がでてきます。
食育の味覚教室でこの実験をすると、参加者からどよめきの声があがります。それほど劇的な効果が現れます。
 西洋や中国でも野菜(グルタミン酸を含む)と肉や魚(イノシン酸を含む)を合わせてだしをとっています。うま味の相乗効果をうまく利用しているのです。

▲うま味調味料をなめても美味しくないのは

 昆布やかつお節から採っただしを単独で舐めても美味しくありません。味の素を舐めてがっかりした経験を持つ人は多いはずです。
 その理由は、うま味だしや調味料は、素材の持ち味を引き出す役割を担うものであり、単独では決して旨くないのです。塩や酢、味噌、醤油などが単独ではおいしくないのと同じです。少量を料理に使うことで、他の味との調和がなされると考えられています。

▲だしを好むひみつとは

 日本食の基本はだし味です。そのうま味を口にすると、脳内に快感のホルモンが分泌されると言われています。油脂を食べても同じホルモンが快感を誘起します。
しかもうま味の成分は必須栄養素のアミノ酸であり、塩(ミネラル)、砂糖(ブドウ糖)油脂(脂肪酸)と共に、遺伝子に組み込まれた好物です。教えなくとも覚える味ともいえます。
 このだし味さえあれば、油脂を中心とした西洋食にうつつを抜かすことも防げるのだが、油脂の魔性には勝てないのが現状です。子ども達に、だしの味をインプットしようとする食育の意図が実はここにあります。

▲癖になる味のひみつとは

 ハンバーガーをはじめ、ファストフードには「癖になる味」が隠されています。開発研究者はその魔性の味を求めて、世界の果てまでも探索の日々を送ります。
 その人間が癖になる味とは、だし、油(油脂)、砂糖、塩の微妙な組み合わせから生まれます。この3つが、あるいは2つが重なると、脳内に快感ホルモンが分泌され、病みつきの味となります。
 砂糖と油(クリーム、ケーキ)、だしと油(ラーメン、ハンバーガー)、砂糖と油とだし(すき焼き)など、身近な献立に多く存在しています。料理人はこれに「食感」「匂い」などの素材感を生かす工夫で、我らの食卓を楽しませてくれます。

3、美味しいだしのとり方

 美味しいだしのとり方をご紹介しておきましょう。料理人は「だしを引く」という言い回しをするが、一般は「だしを取る」と表現することにいたします。
 すでに多くの既成のだしの素が市販されているが、ここぞという場面には是非、手間をかけてだしを引くことをお奨めしたい。

<昆布とかつお節の合せだし>

昆布(30g)を1000ccの水に浸しておく(30分)。鍋にかけ水が煮立つたら昆布を取り出し、かつお節(30g)を入れ、火を止める。
しずかにザルでこせば、「かつお・昆布だし」ができる(一番だし)。
○用途:すまし汁、味噌汁
一番だしをとったあとの昆布とかつお節を鍋にいれ、水を入れて沸騰させる。
20gのかつお節を加え、弱火で5分煮る。ザルでこして(二番だし)ができる
○用途:味噌汁、煮物、椀だね


<昆布だし>

昆布(30g)は布巾でさっと汚れをふく。水(1000cc)に入れる(そのままおいておくと、旨みがでる)。
昆布と水を鍋に入れ、ふたをせずに中火にかける。 煮立つ直前、昆布から細かい気泡が出てきたらとりだす。

グルタミン酸ナトリウム


<かつお節だし>

沸騰直前(1000cc)の鍋に、片手1杯のかつお節(30g)を入れ弱火にする。そのまま1分煮て火を止める。
かつおが底に沈むのを待つ。ザルに布巾やキッチンペーパーを載せ、静かにこす。 かつお節は絞らない。

イノシン酸ナトリウム


<煮干しだし>

煮干(30g)は、頭とはらわたの部分を取り除く。
水(1000cc)にしばらく入れておく。
鍋に入れ中火にかけ、煮立ってからさらに5~6分ことこと煮る。
火を止めてすぐに煮干を取り出す。
(煮干は予め、中火でから煎りしておくと、旨味が強く、臭みも取れる)イノシン酸ナトリウム
○用途:味噌汁、濃い味の汁物、野菜の煮しめ


<椎茸だし>

椎茸(30g)を水(1000cc)に入れ冷蔵庫で一晩かけてもどす。椎茸を取り出し、中火にかける。煮立ったらアクをとる。
急ぐ時は、調理前にさっと水洗いして、椎茸が浸かるくらいのぬるま湯で戻すか、ヒタヒタのぬるま湯に入れ電子レンジに2~3分かける。
昆布と合わせると、コクのある旨味がでる。
グアニル酸ナトリウム
○用途:和風、中華風の煮物、


<雑節のだし>

水(1000cc)。
混合削り節(さば・ふし、さば・煮干し、むろあじ・煮干し)(40g)。
鍋に水(1000cc)を入れ、沸騰させる。
削り節を入れる。
煮立ったら弱火で、アクを取りながら、3~4分煮出す。
ペーパータイルなどで静かに越す。
○用途:濃厚なだしが取れる。めんつゆ


<あごだし>

鍋に水(1000cc)とあご(40g)を入れて、数時間から半日おく。中火にかけて(蓋はしない)アクをすくい、弱火で15~20分煮出し、あごを取り出す。
ペーパータイルなどで静かに越す。
○用途:上品なだし、みそ汁、ラーメンのだし、スープの隠し味


 以上が代表的なだしの取り方です。だしは冷蔵庫に保存すれば、造り貯めが出来るから、時間を見つけては台所に立つのがいいでしょう。

4、世界のだしについて

 最後になったが、世界のだしについて、その種類と旨味成分をまとめておきます。

<日本料理>
種類 つくり方、用途 旨味成分
昆布 素材の風味を損ねたくないときに使う。豆腐、すまし汁、精進料理 グルタミン酸
かつお節 日本料理に幅広く使う イノシン酸、グルタミン酸、ペプチド
煮干し みそ汁、野菜の煮物など濃厚なだしに使う 同上
干し椎茸 中華料理や煮物、炊き込みご飯に使う グアニル酸
さば節・宗田節 めんつゆなどの使う イノシン酸、その他
鶏ガラと昆布 中華や西洋料理に使う イノシン酸、グルタミン酸、ペプチド
精進だし 昆布、わかめ、干し椎茸、干瓢、大豆を水につけてとる。精進料理のだしに使う グルタミン酸、グアニル酸

<西洋料理(フォン)>
種類 つくり方、用途 旨味成分
フォン・ド・ボー 骨付き牛すね肉、仔牛の骨、香味野菜を炒めて煮出す。肉、骨、野菜の焦げ色と旨味が出てコクがある。 イノシン酸・グルタミン酸
白身魚のスープストック   同 上
鶏ガラのスープストック   イノシン酸・グルタミン酸
野菜のスープストック 玉ねぎ、にんじん、セロリ、キャベツ等。 各グルタミン酸

<中国料理(タン)>
種類 つくり方、用途 旨味成分
鶏湯
<ジータン>
丸ごとの鶏にしょうがとねぎを加え、水から煮込む。 グルタミン酸・イノシン酸
肉湯
<ロウタン>
豚のもも肉やロース肉を、しょうがや葱ともに水から煮込む。 イノシン酸
排骨湯
<パイクウタン>
肉のついた豚のあばら骨を砕き、生姜や葱を加え水から煮込む。
濃厚な味で、こってりした料理に使用。
イノシン酸
乾貝湯
<ガンベイタン>
干し貝柱を水につけてもどし、煮出した汁。濃厚な味。 グルタミン酸
乾鮑湯
<カンパオタン>
2日かがりで取る干しあわびのだし。
2度目のゆで汁が上等。
グルタミン酸
蝦米湯
<シャーミィタン>
しえびを熱湯に浸けてもどし、煮出した汁。 グルタミン酸
香茹湯
<シャンルゥタン>
干しシイタケをもどしてから、葱と生姜を加えてとろ火で煮出しただし。 グアニル酸・グルタミン酸
蔬菜湯
<シューツァイタン>
キャベツ・白菜・大根・にんじん・じゃがいも・玉ねぎのうち2、3種類をあわせて煮出す素湯。 グルタミン酸
参考資料:にんべんのHPより

 以上の他に、東南アジア圏の魚醤や穀醤もきわめて基礎的なうま味だしです。秋田鍋のダシのしょっつる(グルタミン酸ペプチド)に近い形をもっている伝統のうま味です。
 またうま味成分は、現在は主として醗酵工業の手法で人工的に製造され、市販されています。主成分のグルタミン酸ナトリウムにグアニル酸とイノシン酸を添加して、うま味の相乗効果を出している例が多いようです。
 日本の池田菊苗博士によって1907年に発見された、グルタミン酸をはじめとするうま味成分は、今や「Umami」という世界語として、共有化されようとしています。誇るべき日本の食文化なのです。


○ママたちの食育体験レポート(4)

 2008年1月19日、ママたちの食育学会が開催されました。今回の講師は山田キヌ子氏です。聴講生は32名です。
 演題は「故郷のかぶ漬の話し」です。山田氏の論旨は以下の通りです。
<論旨>
 私の故郷の新潟県朝日村に、昔から伝わる「かぶ(蕪)漬け」についてお話いたします。焼畑農業の山間で栽培され続けている、あの「赤かぶ」が原料です。
 漬物はその歴史の長さが示すように季節の野菜を原料として、旬を感じながら食べる日本の代表的な保存食です。野菜が不足する長い冬の生活を支えてくれる貴重な食べものです。

<山田キヌ子氏>  

 また各家庭の味があり、親から子へと伝えられてきた伝統料理でもあります。忙しくて大変な世の中ではありますが、子どもは手づくりの味や一緒に作ったことは身体で覚えているものです。それが家族の心と心をつなぐ絆になると思っています。
 私には3人の子どもがいますが、この「かぶ漬け」を普段食べて育ちました。無くてならない我が家の味であり、伝えていかなくてはならない大切なものがあることを、しみじみと感じています。
 是非、今回ご披露する田舎の味をご賞味いただき、皆様の食卓の一品に加えていただければ幸いです。漬け方は以下の通りです。赤かぶの量に合せて、塩、酢、砂糖などを加減ください。


○かぶ漬けのつくり方

<一粒漬け>

(材料)

・赤かぶ(12kg)
・塩(2合)
・5倍酢(360ml)
・砂糖(2kg)
・焼酎(1合)



1、赤かぶを桶に入れ、塩、5倍酢、砂糖、焼酎を混ぜてかける
2、4~5日たったら別の桶に漬け直す。砂糖が沈殿しているのでそれも入れる
3、2週間くらいで食べころになる

<切り漬け>

(材料)

・赤かぶ(10kg)
・塩(1,5合)(300g)
・5倍酢(1,5合)
・砂糖(1kg)



1、赤かぶは1cm厚さに切り桶に入れる
2、塩、5倍酢、砂糖を混ぜ合わせて、赤かぶの入った桶に入れ、よくもみ、重石をする
3、1~2日後、かき混ぜ上下すると早く良い色が出る

  • そのまま食べるので、つける桶や容器はきれいなものを使う。
  • 長く貯蔵する時は、塩で下漬けし、酢に漬けかえると漬け汁が出すぎず、よく漬かります

 今回はかぶ漬け以外にも、以下の我が家の漬物を数種持参しました。ご賞味いただき、感想を述べてくだされば幸いです。

○大根の醤油漬け
○大根の酢漬け
○大根のビール漬け
○味噌漬け
○醤油漬け
○白菜漬け
○らっきょ漬け

 山田氏のお話しの後は、いよいよ恒例のテースティング会です。
 三々五々に参加者は9種類の漬物を賞味します。漬け方の質問も多く出されます。熱々のご飯が欲しいとか、お酒があればなどと言いながら各自はテースティングに挑みます。さらにその結果は、言葉で表すことになります。全員からの味覚の表現は以下の通りです。

・魚より肉より美味しい日本の味
    ・ご飯とお酒に欠かせない
    ・塩味が絶妙!かぶ漬け大好き
    ・焼畑農業の赤かぶ漬けは最高
    ・子どもに伝えたい味だ
    ・春が来て、夏が来て、秋が来て、その野菜と自然を愛情に変える伝統の味だ
    ・先人の知恵
    ・日向ぼっこの味
    ・伝統の味を新しく工夫している
    ・歯ざわりのよく、素材が生きている
    ・日本の底力。心も豊かになります。

などなど、ママたちが日頃求めている心の表現が数多く出されました。
 で、山田氏のキャッチフレーズは次の表現に決まりました。

季節の移ろいと伝統を漬け込む キヌ子の贅漬物

 山田家にはすばらしい伝統の味が生き、受け継がれようとしています。これはもう山田家のブランド漬物そのものです。久しぶりに故郷の味を満喫した山田キヌ子氏のお話でした。
なお赤かぶは、今もなお山北町などの焼畑で栽培されています。


○日本の餅と雑煮の文化概論

早見公仁

 日本のお餅の縁起由来および歴史と、その食文化について論じてみましょう。そこには悠久な日本民族の営みがみえて参ります。さらに雑煮餅にみる地域の食文化の違いやこだわりなど、「おらが自慢の雑煮餅」論議にも拍車をかけてくれます。

○稲作の始まりと餅

 いよいよ秋も深まり、朝晩の冷え込みが厳しくなって来ました。こうなって来ると、夕餉(ゆうげ)に囲む鍋が恋しくなり、鍋には付きものの餅が食べたくなります。私が小学生だった頃までは、我が家ではお正月を前にして家族総出で餅つきを行っていました。
 子どもながらに、杵を大上段に構え、力強く振り下ろす父の姿に畏敬の念を覚え、振り下ろされる杵の合間にリズミカルに合いの手を入れる母の姿に、よくも手を潰されないものだと感心したことを鮮明に思い出します。
 そんな一幕の風景から家族の絆というものを深めていたことを思えば、近年なかなか家庭で臼と杵での餅つきが出来ないことを残念に思うのは、私だけではないはずです。

 もう一つ残念に思うことは、何時の頃からか日本人のDNAが餅を寒くなってからの食べ物としてすり込んでしまったことです。
 そもそも餅の起源を調べてみると、日本の稲作の歴史にまでさかのぼります。東南アジアに発した稲が日本列島にまで達したのは、今から2300年ほど前の、縄文時代晩期から弥生時代初期と言われています。
 日本に伝来した当時の稲は、いわゆる古代米と呼ばれる赤米・黒米の類いであり、これをご飯に混ぜて炊くとモッチリ感が増して美味しくなることで解かるように、モチ質のお米だったと考えられます。であるなら、餅は一年中食べる主食の役割を担っていても不思議ではないのです。
 とは言え、餅を使った料理は、正月の雑煮をはじめ、祝い事や儀礼の際の食品(ハレの食品)として、各地の伝統的な生活様式と結びつき、まさにスローな食文化の代表として息づいている事は喜ばしい限りです。

○餅の語源

 餅の語源は、丸めた形が満月(望月・モチヅキ)に似ているからとか、保存性がよい・持ち運びがし易い(持ち飯・モチイイ)事からきていると言われています。
 一般に関東では四角い切餅が食べられ、関西では丸餅が食べられますが、最初は丸だったものが関東で武家社会の裃(かみしも)をイメージした四角になったと言われています。
 丸餅2,000年の歴史に比べ、切餅は精々300年足らずの新参者に過ぎないのです。丸餅の歴史の方が圧倒的に古いのは、その語源からもうかがうことができますが、その丸い餅の代表例はなんと言っても鏡餅です。

○鏡餅

 新年を迎えるにあたり、丸い形をした2段重ねの餅を床の間や神棚に供える習慣は、平安時代に宮中で行われた『歯固めの儀』に由来すると言われています。
天皇が鏡餅を拝んだ後に、その餅を良く噛んで食べると『齢を固める』と言うことで長生きするという意味が込められていました。
やがて宮中から公家、武家社会に伝わり、一般庶民には江戸時代に入ってから普及した様です。それまでは餅米の生産量も少なく、餅は庶民には手の届かない高級な食べ物であった様です。
  正月に鏡餅を拝み、歯固めを食べる行為は、最初は一連の儀式でしたが、鏡餅を拝む行為と歯固めを食べる行為とに分離し、後者は雑煮を食べるという風習へと引き継がれたと考えられています。

○雑煮

 雑煮を食べる習慣は、約1,000年前の文献から見られ、京都で使われ始めた『烹雑(ほうぞう:色々な具を入れた煮物の意)』がその言葉の起源とされています。
また、『烹雑』の意味は『保臓』であり、餅や様々な煮物を食べる事で五臓が温まり、臓器を保養する意味があると説明する文献もあります。 
正月に、一年の無病息災を願い、体を養い栄養を補給する重要な位置づけの食べ物が『雑煮』と言うことではないでしょうか。
 雑煮の話題になると『本当の雑煮とは、必ず餅が入るのか』とよく議論されます。雑煮の起源が『歯固めの儀』にあるとすれば、餅は無くてはならない物のようですが、江戸時代に庶民文化に広まった過程では、餅は貴重品であり、単に『具の入った煮物』として広まったことを考え合わせると、どちらが正解とも言えないように感じられます。
 さて、いよいよ各地の雑煮の違いを見てみましょう。雑煮は『家庭の数だけ味がある』と言われるように、餅の有無・餅を焼く焼かない・汁の仕立て(味噌・すまし)、具の内容・だし・・・の組み合わせの違いで様々な味が出来上がります。

全国の違いの傾向は、非常に上手くまとめられているホームページがあるので、ご紹介します。
「日本のお正月~お雑煮をめぐる物語~」
<http://www.konishi.co.jp/html/fujiyama/zouni/zouni/index.html>
 ここで紹介されている、伝承料理研究家 神戸山手大学教授、奥村彪生先生の『日本列島雑煮文化圏図』を下記に掲載させていただきます。

 北海道と沖縄には雑煮文化が伝わらなかったと言われています。
現在では、北海道には明治以降に本州から移り住んだ人たちが持ち込み、食べられるように成ったようですが、沖縄には今も雑煮文化がありません。
また、稲作の盛んでなかった山間地や島では、餅に変わってサトイモや豆腐が代替品として使われる地域も見られるようです。 
『雑煮には餅が付き物か』の答えを探る事例の一つがここに見受けられます。
   話題は変わりますが、丸餅・切餅が滋賀県付近で分岐するように、この付近で食文化の違いが現れる境界線が他の食べ物にも見られます。
稲荷寿司の形もその一つで、西の方面では稲荷神社のつかいであるキツネの耳を形取った『三角稲荷』となり、東の方面では『稲荷』が『稲の荷物』と読むことが出来ることから、『俵型』に形取られています。
 前回の手作り食育学会では、食材の流通経路による『ダシ文化』の特徴について学びましたが、違った視点でもダシの文化を考えてみたいと思います。
 昆布ダシを取るには京都の水のような軟水が適しており、東京の硬度の高い水では昆布のうま味成分のグルタミン酸が水のミネラル分と結びついて灰汁になり、雑味を感じるようになるそうです。
 逆に、カツオブシのような魚介系のダシには、硬度の高い水のほうが臭みを消してくれる作用があるため適しているので、各地のダシの分布にはその土地の水質が大きく関わっていることが予想されます。
 また、お酒の仕込みでも、仕込み水の硬度で味が変わると聞きました。硬度が高くミネラル分が多く含まれる水は、酵母が活発に働き、糖分を最後までアルコールに変えることで辛口の酒となり、ミネラル分の少ない軟水では甘口の酒になるそうです。
 その様な観点で、雑煮の味付けの分布をみると、また違った発見があるかもしれません。

○ 全国の雑煮餅文化の分布

日本の雑煮餅文化とその分布図は以下のとおりです。

県 名 餅の形
/調理
汁の種類 名  称 特  徴

《東北》
青森 切・焼 すまし   醤油にみりんのすまし汁。昆布と焼き干し、かつおでだしを取り、具は鶏肉、にんじん、大根、ごぼう、春菊、かまぼこ、しめじ、舞茸など。
岩手 切・焼 すまし イクラ雑煮 大根、にんじん、ごぼうなどの野菜の他、イクラやホヤ等の三陸の海の幸がのった具沢山が特徴。鶏ささ身、かまぼこ、みつ葉、焼いた切り餅も入り、薄口しょうゆと酒で調味します。
秋田 切・焼 すまし 山菜雑煮 わらび、ぜんまい、姫竹の子、ふきなどの山菜に、きのこ、にんじん、鶏肉など具沢山で煮立て、塩、醤油で調味します。
宮城 切・焼 すまし ハゼだし雑煮 焼きハゼのだし。大根、にんじん、ごぼうのひきな(千切り)、カラドリ(ずいき)、せり、長ねぎ、こんにゃく、凍み豆腐、かまぼこ、鶏肉、ハラコなど具沢山。くるみだれをつける地域もあります。
山形 切・焼
丸・焼
すまし   庄内地方はイワシの煮干しだしで、わらび、カラドリ(ずいき)、こんにゃく、油揚、鶏肉など。内陸部は大根、ごぼう、里芋、セリ、ぜんまい、鶏肉など。つきたての餅をちぎって入れることもあります。
福島 切・焼 すまし   大根、にんじん、里芋、ごぼう、しいたけ、みつ葉、こんにゃく、油揚、凍み豆腐、蒲鉾、なると、鮭、すじこ、鶏肉等。つきたてのお餅をちぎって入れることもあります。

《北陸、甲信越》
福井 丸・煮 赤味噌 かぶら雑煮 名産のかぶだけで作る雑煮。珍しい赤味噌仕立て。輪切りのかぶと丸餅を昆布の上に重ねて昆布の出し汁を注ぎ、赤味噌を加えて煮込みます。さっとゆでたかぶの葉と共に椀に盛り、ゆずと削り節をのせます。
石川 切・煮
丸・煮
すまし   すまし汁に餅だけの雑煮など質素。にんじん、ごぼう、青菜、せり、みつ葉、海苔、かつお節、かまぼこ、甘エビなどを入れることもあります。
富山 切・煮、焼 丸・煮 すまし 海の幸雑煮 長ねぎと餅のみの地域もあれば、具たくさんのものも。にんじん。ごぼう、せり、みつ葉、銀杏、しいたけ、こんにゃく、焼き豆腐、すりかまぼこなどの他、甘エビ、鯛、寒ぶり、焼きさば、イクラなど、海の幸を入れる地域が多いです。
山梨 切・焼 すまし   醤油と鰹のすまし汁に、ささみ、にんじん、しいたけ、サヤエンドウなどシンプルなお雑煮です。
長野 切・焼 すまし ブリ雑煮 松本付近ではブリ入り。白菜、長ねぎ、みつ葉、しいたけ、なると、ブリなど。くるみダレをつける地域もあります。
新潟 切・焼、煮 すまし 鮭の親子雑煮 大根、にんじん、里芋、ごぼう、ほうれん草、長ねぎ、こんにゃく、焼き豆腐、塩鮭、イクラ(半生)など具たくさんです。

《関東》
茨城 切・焼 すまし 関東雑煮 鶏肉、大根、人参、かまぼことシンプルな具です。
栃木 切・焼 すまし 鶏ねぎ雑煮 昆布と削り節でとった出し汁で鶏むね肉を煮て、薄口しょうゆと塩で味を整えます。焼いた切りもちと椀に盛り、みつ葉としらがねぎをたっぷり乗せます。特産のかんぴょうを入れることもあります。
群馬 切・焼 すまし 関東雑煮 かつお節と醤油のすまし仕立て。具は鶏肉と長ねぎ。
埼玉 切・焼 すまし 関東雑煮 かつおだしで、具は大根、人参、ぎんなん。まれにこんにゃくを入れる家庭もあります。
千葉 切・焼
丸・煮
すまし
赤味噌
はば海苔雑煮 大根、にんじん、小松菜、油揚、かまぼこ、なると、鶏肉など。青海苔、はば海苔(岩海苔)、かつお節をのせる地域もあります。
東京 切・焼 すまし 東京雑煮 切り餅とすまし汁が特徴の東京風。昆布と削り節のだし汁を煮立て、里いも、干し椎茸、小松菜、鶏肉、かまぼこ、結び昆布を煮、しょうゆと塩少々で調味。香ばしく焼いた切りもちと一緒に椀に盛って、ゆずを添えます。
神奈川 切・焼 すまし 関東雑煮 大根、にんじん、小松菜、かまぼこ、鶏肉など。海苔やかつお節などをのせることもあります。

《東海》
岐阜 切・焼、煮 すまし   具は大根、にんじん、里芋、ごぼう、小松菜、ねぎ、きのこ、ワラビ、こんにゃく、豆腐、かつお節などです。
静岡 切・焼、煮 すまし   大根、里いも、生しいたけ、白菜が具。白菜は巻き簾で巻き、一口大に切ります。
愛知 切・焼 すまし 鶏雑煮 鶏のだし汁をしょうゆと塩で調味し、鶏肉、大根、にんじん、小松菜、焼かない切り餅をひと煮して、椀に盛り、削り節をかけます。
三重 切・焼、煮
丸・焼
すまし 蛤雑煮 はまぐりは茹でて身をだし、里芋を下ゆでする。輪切りにしたにんじん、生しいたけ、はまぐりをだし汁に加え煮、塩、醤油で調味する。餅と椀に盛りつけます。

《近畿》
滋賀 丸・煮 白味噌   里芋、大根、人参焼き豆腐が具になります。
京都 丸・煮 白味噌
赤味噌
京都風雑煮 煮た丸もちと白味噌仕立てが特徴。だしは昆布のみで取り、精進仕立てにします。だし汁にやつがしらと里芋、下ゆでしたかぶとにんじんを入れて煮、白味噌で調味。ゆでた丸餅と椀に盛りゆずを添えます。
大阪 丸・煮 白味噌   白味噌仕立てに大根、にんじん、里芋、焼き豆腐などが入ります。
兵庫 丸・煮 白味噌
赤味噌
小豆汁
  鶏肉や焼き穴子が入っているのが特徴。長田区の元捕鯨の砲手だった家では鯨肉が入ります。
奈良 丸・焼 白味噌   餅は取り出して、きな粉をつけて食べます。だいこん、にんじん、里芋、豆腐、かつお節など。
和歌山 丸・煮
切・焼
白味噌
すまし
紀州雑煮 里芋、大根、青菜とシンプルなお雑煮です。

《中国》
鳥取 丸・煮 小豆汁 カニ雑煮 カニ、大根、生しいたけが入ります。
島根 丸・煮 すまし
小豆汁
ぜんざい雑煮 ゆで小豆を甘く仕立て、ゆでた丸餅を入れた小豆雑煮。小豆を破れないようにやわらかく煮、砂糖で甘く味付けします。丸餅はやわらかくゆでて椀に入れ、小豆汁を注ぎます。小豆の上に好みで砂糖をかけて食べます。
岡山 丸・煮 すまし
小豆汁
塩ぶり雑煮 厚切りの塩ぶりが入ることが多い。にんじん、ごぼう、ほうれん草、かまぼこなど。かつお節や生海苔をのせたシンプルな雑煮や、瀬戸内海沿岸では小豆雑煮もあります。
広島 丸・煮 すまし かき雑煮 丸餅で特産のかき、塩ぶりなどが入るのが特徴。昆布のだし汁でかきとねぎをさっと煮、しょうゆと砂糖で甘辛く味付けします。煮た丸もちと共に椀に盛り、みつ葉を添えます。
山口 丸・煮 すまし 牛肉雑煮 甘辛く煮た牛肉、焼き豆腐、油揚、小松菜を入れます。

《四国》
徳島 丸・煮 赤味噌
白味噌
鶏肉雑煮 鶏肉はそぎ切り、里芋は角切り、大根は薄い輪切りにし下茹でします。だし汁に具を加えて煮、味噌で調味する。餅と椀に盛りつけ、みつ葉を散らします。
香川 あん餅・煮 白味噌 あん餅雑煮 小豆のあんが入った丸餅を白味噌仕立てにした、ちょっと不思議な雑煮。削り節でとっただし汁に輪切りの大根とにんじん、あん餅を入れてやわらかく煮、白味噌で味を整えます。青のりをふりかけて食べます。
愛媛 丸・煮 すまし 鉄砲雑煮 鉄砲(ふかの丸干し)、ごぼう、大根、人参、ほうれん草が入ったお雑煮です。
高知 丸・煮 すまし   大根、にんじん、タイモ(里芋の一種)、ごぼう、水菜、白菜、ほうれん草、こんにゃく、豆腐、かまぼこ、鶏肉などが入ったすまし仕立てです。

《九州》
福岡 丸・焼、煮 すまし アゴだし雑煮 アゴだしで、大根、にんじん、里芋、ごぼう、カツオ菜、レンコン、竹の子、しいたけ、豆腐、スルメ、昆布、かまぼこ、ブリ、鯛、鶏肉が入ります。
佐賀 丸・煮
切・煮
すまし   鶏肉。しいたけ、だいこん、人参、からし菜、かまぼこを昆布と干ししいたけのだしで作ります。
長崎 丸・焼、煮 すまし ぶり雑煮 鶏団子、ぶり、椎茸、高野豆腐、蒲鉾、筍、青菜など具は奇数。島原地方の具雑煮は家庭料理としても食べられます。長崎白菜、鶏肉、ごぼう、せり、春菊、山芋、餅、蓮根、干し椎茸、穴子、凍み豆腐、竹輪、蒲鉾、卵焼き等が入ります。
熊本 丸・焼、煮 すまし   すべての具が丸く切られているのが特徴。鶏肉、人参、さといも、京菜、水前寺もやしが入る。12週類の具が入るのが本流。
大分 丸・焼、煮 すまし   鶏肉、みつば、しいたけ、エノキ、かまぼこ、薬味としてカボスを入れます。 別に、鍋雑煮という煮ながら食べるお雑煮があります。鶏肉、ごぼう、人参、大根、しいたけ、しめじ、筍、鳴門巻き、水菜が具となります。
宮崎 丸・焼、煮 すまし 鶏肉雑煮 鶏肉、干ししいたけ、大豆もやし、ほうれん草、焼き豆腐を具に、塩と醤油で調味した澄まし汁です。餅を盛りつけた椀に静かに注ぎ、吸口にゆず又はみつ葉を添えます。
鹿児島 丸・焼、煮
切・焼、煮
すまし
赤味噌
えび雑煮 鶏肉、えび、かまぼこ、春菊、生しいたけをだし汁に加え、塩、醤油で調味します。

<参考資料>
『餅の話あれこれ』鈴木繁男著
『包装餅を使ったお餅料理集』全国餅工業協同組合編 
『日本のお正月~お雑煮をめぐる物語~』
『全国のお雑煮MAP2005』
http://www.rurubu.com/entame/04winter/ozoni/index4.asp



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