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2007年12月01日 08:57

VOL 6

○スローなミネラル塩を造り続ける人々

 秋日和の10月に、新潟の県北を訪ねた。山形県に近い海辺で、黙々と天然の製塩業を営む仲間に会うためだ。富樫秀一ご夫妻が経営するミネラル工房である。新潟からは汽車で1時間足らずのところで、笹川流れの景勝地を抜けたところにその工房がある。
 羽越線の府屋駅を降りると、日本海が青々と広がり、粟島がかすかにみえる。特急が停まる駅なのだが、人っ子ひとりいない府屋の駅周辺である。コンビ二が一軒あるだけの過疎地の静けさが、眼前に広がっている。哀しいほど静かな町だ。
 さっそく駅から4キロほどの工房をたずねた。車をおりるとミネラルという文字が目に飛びこんでくる。富樫さん自慢の製塩工房である。
 工房は羽越線と日本海に挟まれた道路沿いにあり、三角屋根が特徴である。仮の家屋設計にしているとのことである。路を隔てて深い紺碧の日本海が果てしなく広がっている。


府屋の駅

工房の全景

目印の看板

 さっそく製塩業にかける富樫さんの想いについて尋ねた。まず富樫秀一(32歳)さんの履歴である。富樫さんは若い頃、建築士を目指して東京に就職した。しかし馴染めなく、2002年に故郷の府屋に帰郷することになる。東京からみた故郷の良さを再認識したからだという。いわば都会を目指した挫折組の一人でもある。その苦い経験がこれからの人生を大きく変えることになる。  
 そして小さい時から、身近に見てきた塩つくりを、父親と2人で、府屋で挑戦することになる。山北地域には数軒の製塩業が今も散在して、活動している。
 富樫さんの塩づくりは、透き通ったきれいな日本海の塩水を、100%煮詰めてつくるスローなやり方である。何段階も塩の顔をみながら、不純物を取り除いて丁寧に結晶化させていく方法だ。そして辿りついたのが、旨い塩である。白いダイヤ(商標名)と名付けている。
 製塩の工房を案内しながら、塩にかかわる熱き想いを語る富樫さんにとって、やはり塩の販路と売上にはかなり苦労したようだ。その苦労話が節々にでてくる。
 従業員は家族含めて5人である。この5人が食べていけるだけのビジネス活動ができれば、あとは無理に数量を売り、売り上げの拡大を図ることはしたくないともいう。限られた生産量を、丁寧にお客様に届けるのが、当面の方針だと顔をほころばせながら語る。
 自慢の塩は3種類に分けられている。荒塩、白いダイヤ、越後黄金の3種である。勧められてこの3点を味覚した。「荒塩はしょっぱい、白いダイヤは旨い、越後黄金は深い」なる味わいが持ち味だと富樫さんはいう。たしかに微妙に違う味がする。塩が甘い(旨い)などとは、予測もしなかったから感激ものだ。
 また塩の成分のミネラルバランスについては、ニガリの調整がポイントで、お客様の要望に応じて、バランスを調整しているという。お客様の体が欲しがるミネラルバランスが大切と考えるからだ。そのニガリを舐めると、そのミネラルの苦さが口中に広がるのが実感できる。



工房の富樫さん
白いダイヤ 自慢の商品群

  念のために製塩の過程をみておこう。大きく分けて塩には3つの種類がある。

  1. 煎ごう塩―立釜、平釜で煮詰めてつくる方法

              →食塩、並塩、瀬戸の本塩、食卓塩、能登の浜塩、伯方の塩など

  1. 天日塩―塩田

     →原塩、カンホアの塩、

  1. 岩塩―採掘

     →アンデスの塩
以上の他に膜濃縮装置を使った製造法もあり、それぞれの特徴を持っている。従って富樫さんの塩は煎ごう塩という部類に入ることになる。

 



富樫ご夫妻

 


 山北町の海辺で営まれているスローな製塩を守る人々。塩化ナトリウムだけの、ピリピリしたファストな食卓塩とは、また別の味わい深き塩に出会った一日であった。
 しかしこの製塩所にもやがて厳しい雪がやってくる。波の華が風に舞い散る試練の日々が到来する。雪に負けない純白なダイヤを、作り続けて欲しいと願いながら、府屋を後にした。