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2007年09月01日 07:07

VOL 3

○天上田の無農薬米を守り続ける人々

 佐渡の野浦の山間の棚田で、こつこつと農薬を使わない米づくりに励む人がいる。北野源栄さんである。村の文弥人形の使い手でもある生粋の佐渡人だ。
 すでに久しく化学合成肥料・農薬を一切使わない栽培をてがけて、毎年100俵ほどの出荷実績を持つこだわりの農家の一人だ。その北野さんの棚田をさっそく7月下旬に訪ねてみた。
 海抜250メートルほどに位置する棚田はまさに天上田と呼ぶにふさわしく、吹き渡る風も心地よい。その棚田の眼下には佐渡海峡が展望でき、はるかかなたの向うには新潟市がみえる。
 この海抜250メートルの棚田は水も豊富で、しかも冷たい。田には蛙、ユスリカ、泥鰌などの生物が無数に生存しており、朱鷺の餌場にも最適だと案内の人が目を細める。
 そんな棚田のこだわりの米に目をつけ、さらなる支援を申し出たのが、新潟市に本部をおく新潟県総合生協商品事業部の佐々木功さん(39才)だ。もう7年前のことである。当時佐々木さんは、生協本来の「環境にやさしい・安全・安心」の米づくりを模索し続けており、北野さんに出会ったという。2001年のことである。


佐々木功さん 北野源栄さん

 それ以来北野さんのお米を、佐々木さんの総合生協の組合員に供給する連携が生まれた。もう7年続いている。佐々木さんがさばく「北野さんのコシヒカリ」は、65俵ほどとビジネスとしてはあまり多くはないが、確実に新潟県内の消費者の手に渡っている。値段は3,675円/5kg、税込みである。品質に比べたら格安だ、
 しかし、佐々木さんは、ただこのこだわった米を供給するだけではない。毎年、田植えや草取り、稲刈りなどを組合員の家族とともに行なっている。また、7月には環境の調査も行なうワークショップを開催している。同時に開催される野浦の芸能フェスティバルにあわせての食育の勉強会である。
 実際に田んぼに触れないと、米の本質が分からないと考えるからだ。すなわち棚田の環境、風景すべてが価値だと佐々木さんは理解しているのだ。
 最近では北野さんの考えに触発されて、10名ほどの人が化学合成肥料・農薬を通常の半分以下に減らした農法に参加し、グループの輪が広がってきたという。その米の販売を佐々木さんは担当しながら、2008年に放鳥される朱鷺の餌場へと想いが飛んでいる。



 棚田の見学が終われば、下山しての野浦の芸能フェスティバルに参加する。テントが張られ、アワビやビールが売られ、それぞれがそれをやりながら、年に一度の芸能を楽しむのである。見物者は浦のお年寄りが多い。佐渡の過疎化と高齢化の現実をまのあたりにすることになる。
 しかし伝統芸能を引き継ぐ若者も最近は増えて、活気がでてきたと長老はうれしそうに語る。芝居の出し物は文弥人形、民謡と踊り、春駒、ロックと多種多彩である。日焼け顔の漁師が芝居を演じる場面は、浦芝居ならではの愛嬌とでもいえる。とにかく浦人は、ハレの1日を存分楽しんでいる。



 やがて時間も午後2時をまわり、どこかなつかしい芸能の村に想いを残しながら、今年も天上米のワークショップの野浦をあとにして新潟市に帰ることにした。
 このような佐々木さん達の動きは、些細でとるに足らないことかもしれない。ビジネスにしては手間ばかりかかり、成果も少ない。しかし何か大切な文化や人間の生き様を守り、未来へと引き継いでゆく魂のようなものが感じられる。そのような地域丸ごとを品質と捉えたブランド開発こそ、実はスローフードの根っこにある哲学ともいえる。
 今年も天上田の神様にお会いできて本当によかった。2008年には朱鷺の放鳥も始まる予定と聞く。北野さんの天上田に朱鷺が舞う日もそんなに遠くないだろう。そして来年もまた参加したいと心地よい酔いにまかせて、想いを馳せている我らである。